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Novel

アニメ「ファンタジスタドール」脚本家の1人である、じんのひろあき氏による、
ウェブ限定のオリジナルストーリーノベル!毎週更新中!

ファンタジスタドール
お砂糖とスパイスと何か素敵なもので女の子はできている

著:じんのひろあき
イラスト:Anmi

グルルルル…
立体駐車場の二階。
グオが車が落ちた破れた柵から下を覗き込んでいる。
そして、時々、うずめ達から見ると向こう側へと首を振り、さらに小さな音で話をしているように見えた。低い、カタコトの言葉が時折聞き取れる。
「イク…トモダチ…」
恐竜が一度、体を起こして低い天井すれすれまで頭を上げ、今、まさに飛び降りる体勢になった。
そこで、うずめは恐竜の左の顔のあたりに、おそらくしがみついているであろう、しめじの姿をちらっと見た。
しめじは背中のメインスイッチを押すことを諦めた後、グオの顔の横へ移動していたのだ。
恐竜の耳のあたりで、しめじはささやきグオはそれに答えている…
しめじはティラノサウロスと話をしている!
「しめじ!」と叫んだ、うずめの声が届く前、グオは飛んだ!
軽やかに跳躍して、あっという間に広がった巨大な豆腐の側に、ズン! と着地した。
「落ちた!」「いや、飛んだんだよ」「すごい運動能力」「見て、ぜんぜん平気だ」うずめとドールたち、柵、ぎりぎりで体を乗り出して下の様子を見ながら口々に言った。
そんな皆の頭上にゆっくりと降りてくる大きなシュウマイのアドバルーン。
「うずめちゃん達! こっちに飛び移って!」
屋上から今、立体駐車場の二階に居る、うずめの目の前をゆっくりと降下していくシュウマイの上、ヨモギが叫んだ。
「え? でも、落ちてるし…」
シュウマイの上にはヨモギと黒髪、銀髪のドールが三人乗っているだけだが、すでにその重さに耐えられないのか、バルーンはどんどん沈んでいっている。
これにさらに、うずめとささらと小明とマドレーヌとカティアが乗ったりしたら…
「いいから早く!」うずめ達が躊躇しているのを見て、ヨモギが今一度叫んだ。
安定しないシュウマイの上で、四つん這いになりながらも、銀髪と黒髪のドールも、うずめ達に向かっておいで、おいでと手招きをくり返している。
ささら、うずめの腕を掴むと「飛ぶよ、マスター」と言い、うずめが「え? ええ?」と言った時にはもう片方の手を小明が掴まれ「えええ?」と、思った時にはマドレーヌとカティアに背中を強く…かなり強く、というか、突き飛ばされて! いた!
「わああぁぁ!」
飛んだのは一瞬!
バン! 
気がつくと、うずめはシュウマイのアドバルーンの端にかろうじて引っかかっていた。
「う、うぐぐ…」
うずめの右の脇を掴んでいる、ささらもまた必死にシュウマイの側面にすがりつき、左を支えている小明も片手でシュウマイにしがみついている。
ささらが「早く上がって! マスター」言いながら押し上げられ、同時に小明もまた「せーの!」と、勢いをつけて、うずめの体をなんとか上へ、ヨモギちゃん達がいるシュウマイの上面へと乗せてくれる。
下から見上げた時には、なんて柔らかそうなシュウマイだろ、と思ったが、実際にはテントの生地のようにざらっとしていてかなり丈夫そうだった。
「こっち!」とヨモギの声。
このシュウマイは、エビシュウマイであり、ヨモギは上に乗っている丸まったエビに掴まり、こちらに手を伸ばしてくれていた。
「ありがと」うずめはその手を借りて、同じようにエビに掴まる。
一安心、というところだが、うずめ達が飛び移った、バルーンはどんどん降下していく。
しかも、うずめとささら達のドールが乗っかって重さが増したために、落ちていくスピードも加速している。
「ヨモギちゃん、これで、どうするの?」
「下にいるグオの側までとりあえず降りる」
「それで?」うずめの問いにヨモギは答えず、ささら達に向かって言った。
「ヨーヨー、あるわよね。使えるよね」
「持ってはいるけど」カティアがヨーヨーを取り出した「使えるかどうかって言われたら、えっと、たしなむ程度って感じかな」
ヨモギが「みんなのヨーヨーを投げて、あの恐竜の尻尾にからませてくれる?」と言った。
小明が「なるほど」とつぶやいた。
マドレーヌが「そういうことですか」と、取り出したヨーヨーを右手の中指に引っかけながら言った。
「え? どういうこと?」なにがなんだかわからないが、置いてきぼりにされてることだけはわかる、うずめが聞く。
ささらが一応説明してくれた「ティラノサウロスとこのシュウマイのバルーンをヨーヨーの糸で繋いで、見失わないようにするってこと」
「引っ張ってもらうの?」と、うずめ。
「付かず離れず、恐竜を追跡できる」と、小明は「いいアイディアだ」と言うなり、ヨーヨーをブン投げた。
びゅぅぅ!
ヨーヨーが風を切る音。
下には大きな真っ白いこれ以上崩れることはないお豆腐状のクッションの上にカソ研のベコベコに凹んだバン。
その側に降り立ったグオが頭を下げて、また車の側面にドン! と、頭突きを繰り返している。
そんなティラノサウロスの尻尾の根元に、皆が投げたヨーヨーのワイヤー、くるん! くるん! と巻き付いた。
「おけ!」小明はぐいっ!とワイヤーを引き、しっかり絡まっていることを確認したかと思うと、自分の指に巻いていたこちらの端を、シュウマイの上、真ん中で跳ねた形で飛び出ているエビ部分の根元へと巻き付けていく。
「こういうことでしょ」小明がヨモギに向いて、ふっと笑った。
そう、そういうこと、と、ばかりにヨモギが親指を立ててみせる。
小明に続とばかりに、うずめのドール達は皆、手にしたヨーヨーをグオに向かって放った。
くるん、くるくる!
「みんな、なんでそんなにヨーヨーの達人なの?」と驚いている、うずめの隣でヨモギはまた新しいカードを取り出していた。
「でもって、これとこれのカードを使う!」
うずめが覗き込むカードには『風船』と書かれたカード『×10』と書かれたカード。
「それはもしかして…」と、うずめが答える前にヨモギのデバイスは光を放ち、風船の力、そして、その力を十倍に増強する割り増しカードが目映い光の粉と共に効力を発揮していった。
バルーンは浮力を得て、ゆっくりと上昇し安定していく。
それとほぼ同時に、カソ研のバンにエンジンがかかった。
車の中のユキは「まだ走れるか?」エンジンを吹かして、アクセルを踏み込んでみる。
ぎゃぎゃぎゃぎゃ…と、なにが擦れているのか? 軋んでいるのかよくわからない音がして、車体がゴウゴウゴウと嫌な音を出して震えたかと思うと、車は動き出した。
「いける!」ナナは車の床を踏み抜かんばかりにアクセルに体重を掛ける。
ぎゅるるるるる…
バンは急発進した。
「いひゃあああ!」ユキの声が聞こえたかと思うと、車はさっきグオが爆走していた大通りとは反対方向、安売り王のショッピングセンターの裏通りへと飛び出して行った。
グオオオオオオオオオオ!
恐竜が吠え、すぐさま後を追う。
それに引っ張られて、ヨーヨーのワイヤーで繋がっている遙か上空の宙に浮くシュウマイは、ぐん! という強い力で引っ張られる!
「わあっ!」シュウマイの上、エビの回りで、うずめ達が声を上げた。
みなはとっさにシュウマイのどこかにしがみついたが、うずめだけ横に二回転がって端から落ちそうになる。
「う、うわぁ!」
咄嗟に手を伸ばし、うずめの手をはっし!とヨモギが掴んだ。
「うずめちゃん、手を離さないで!」
「ありがと、ヨモギちゃん!」
ささらがすぐさま「マスター、なに落ちてんのぉ!」と、小明と共に、うずめの体を掴んで引き上げる。
「私だって、好きで落ちてるんじゃありませんよぉ」
ダダダダダ…
グオが裏路地へ。
続いて、空飛ぶシュウマイも裏路地へ。
そこは、屋台街。
シュウマイの看板、シュウマイの文字。
焼売、焼売、焼売、シュウマイ、焼売…
ありとあらゆる焼売の店が並び、点心の良い香りが漂っている。
「これ、なんなの、シュウマイ天国みたいな…」うずめが言った。
それにヨモギちゃんが答える「この街はシュウマイで町おこしをしようとしているんだよ。聞いたことない、シュウマイ消費日本一を目指してね」
先頭を走っているのはカソ研のバン。
さんざんティラノサウロスの求愛(?)の頭突きを受け、両サイドと後ろをベコベコに凹まされ、窓ガラスはヒビだらけ、車体はあちこちひん曲がり、しかも、どこか明らかに故障しているらしく、黒い煙を下の方からもくもくと吹き出している。
その後ろ、まだ車に書かれた恐竜の画を、自分の仲間か、もしかしたらガールフレンドかなにかと勘違いして、追いかけ続けているティラノサウロス。
さらにその恐竜の尻尾に巻き付けられたヨーヨーのワイヤーが空中へ伸び、空を漂っているシュウマイのアドバルーンを牽引している。
シュウマイの上に、うずめとヨモギ、そして、そのドール達が振り落とされまいと、必死にしがみついている←今、ここ。

つづく。