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いきなりの喧噪。その中で、似顔絵を描いてもらっていた、うずめが立ち尽くしていた。傍らには大きなペンタブを抱えたヨモギちゃんが同じく呆然と寄り添って立つ。
高さ八メートル、全長十六メートルの実物大のティラノサウロスがしなやかに尻尾をくねらせながら、大きな頭を地面スレスレに近づけて、机やらパーティションやらをひっくり返し、跳ね飛ばしていく。
「なんだあれ」というのがかろうじて、うずめの口から出た言葉。
そして、ヨモギちゃんも「今日はこういうイベントがあるって、聞いてないけど…」と、事態をいまいち把握していない。
「すみやかに出口へ!」「押さないで!危険ですぅ!」「急いでください」「人を押さないでください」
コミフェスの事務局の人々の悲痛な呼びかけを聞いて、うずめはヨモギを見て言った「私達も逃げないと!」
だが、ヨモギはその場から動こうとはしない。
「ヨモギちゃん!」
そのヨモギの背後、囲んで立つ、黒、銀、ピンクの同じ髪型の三人の女の子。
黒髪のツインテが言った「マスター、戦いますか?」
ヨモギはそれに頷くとうずめ達に「うずめちゃん達は逃げて、早く!」と告げた。
今、マスターとか言わなかった?
「逃げろ!」「わあああぁぁ」という喧噪の中だから、うずめはなにか聞き間違えたかと思った。
でも、確かに今、黒髪のツインテちゃんは「マスター、戦いますか?」と言った。
仮にマスターってのが聞き間違いだとしても、その後の「戦いますか?」ってのはなんなんだ。ヨモギちゃんは漫画家でツインテ達はそのアシスタントだとさっきは聞いた。
それが戦う?
グオオオオ!
というティラノサウロスの咆哮がまた聞こえ、うずめはその声の主を見る。
まだ距離はある。
だが、恐竜は右に左にその巨体をゆらゆらと動かしながら、一歩、また一歩とこちらに向かってくる。
これと戦う?
ヨモギちゃんが?
「うずめちゃん、急いで皆と!」
「う、うん」うずめは頷き「逃げよう、みんな!」ささら達ドールに言うが、マドレーヌや小明達は「しめじがいない」と、探し始めている。
「そういえば…」さっきから、しめじの姿が見えない「どこへ?」
うずめもあたりを見回す。
逃げ惑う人々の群れの中、しめじを探す、が簡単に見つけられそうにはない。
でも、この体育館の中にいるはずだ。
ファンタジスタドールには有効範囲というものがあると、うずめは教わった。マスターである、うずめからドール達がある距離はなれてしまうと、ドール達の姿は消えマニホールド空間へと戻ってくるのだ。
うずめはデバイスを握る。
しめじが帰ってきている気配はなかった。
そして、その時、うずめは見た。
自分が手にしているデバイスとまったく同じものをヨモギちゃんが握っていたのだった…
つづく。