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助手席の女子大生、名をユキという彼女が、うずめ達を振り返って訊いた「あんた達、あの恐竜の背中に乗ってる女の子の友達?」
「はい、そうです」折り重なってまだうまく座れていない、ドールたちに押しつぶされながら、うずめがとりあえず返事をした。
「グオの奴、どこへ向かってると思う?」ユキが後ろの席のコンタに大きな声で問いかけた。
うずめが「グオ?」と聞き返す。
「あの恐竜、ティラノサウロスの名前。あ、ちなみに私の名前はユキ、運転しているのがナナ。そこの後ろに乗っているのがコンタ」
気がつかなかったのだが、後ろの荷物の間に男子大学生が一人。大きなパッドをものすごい早さで指で弾いては様々なウインドウを開いては閉じ、開いては閉じしている白衣を着た丸メガネの彼、うずめ達にちょっと手を挙げて挨拶した。
うずめ達もまた「えっと、あの…鵜野うずめです」「ささらです」「小明です」「カティアです」「マドレーヌです」とそれぞれが自己紹介し、続いて「ヨモギです」と言い、ヨモギちゃんの黒髪のドールが「ロランです」そして、銀髪のドールが「ヴァニラです」と言って頭をちょっと下げたりした。
後ろの荷台からコンタが「グオは今、自分で考え考え歩き始めてるんだ。どこ行くかはわからんよ」と、さっきの問いに答えたとたん、助手席のユキが「なんでわかんないのよ、あんたが作った人工知能なんでしょうが!」と怒鳴る。
「そもそもなんで人工知能のスイッチが入っちゃったんだ? あの恐竜の背中にのっかってる女の子が…」とコンタに言われ「しめじ、ですか」うずめは恐る恐る訊いてみる。
「しめじちゃんっていうの?」と、ユキ。
「そうです」と、さらに恐縮して、うずめ。
ユキは窓の外、併走してドス、ドスと歩いている恐竜の首の後ろの、しめじの姿を示して言った「彼女はグオのこの暴走を停めてくれようとしているだけよ」
言われて、うずめはもちろん、ささら達ドールも改めて、しめじの姿をよく見てみる。
しめじ、こちらの車に、うずめ達が乗り込んでいることに気がついたのか、必死に腕で×を作ってはメインスイッチを指す。
「首の後ろのメインスイッチで、コンタ、どうしてグオを停められないの! どうなってるのよ!」ユキが再び後ろの男子大学生を責める。
しかし、そのコンタという男子はその罵倒めいた言葉にもまったくめげることなく言い返す「あのメインスイッチはねぇ、秋葉原のジャンク屋で二束三文で買った中古パーツだから」
ユキがさらに言う「どうして? メインスイッチをジャンクのパーツで作るのよ! 信じらんない!」
「もう予算が尽きてたんだよ、誰かさんが人工衛星に使うような高価な合金で骨格を作ったりするから」
「だって、骨格は軽くてしっかりしているもんじゃないと役に立たないでしょ」
「骨格だけじゃない、駆動系だってハンパなく金が掛かってるんだよ」
「それはなに? 大学からの助成金からなにから、湯水のように使って足回りを設計施工した私を責めてる。ねえ、そうなの? そういうことなの? え? なんとか言いなさいよ!」
「え、いや、その」さすがにそのコンタという青年も言葉に詰まり始めた。
「責めてる?」ダメ押しのようにユキが続ける。
「褒めてます」根負けしたコンタがそうつぶやいた時、併走しながらこちらを見ていたグオの瞳がぐわっ!と開いた。
そして、歩道から車道へ恐竜は歩み出すと…
うずめ達の乗るバンに向かって突進してきたのだった。
ティラノサウロスは首を大きくこちらに向けて振り、額を勢いよく激しく、うずめ達の乗るバンのドアへと打ち付けてくる。