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「グオがね…私にね、話しかけてきたの…最初は、一言一言……」
しめじが、ここまでの経緯を話してくれた。
ドスドスドスと、シュウマイの屋台街を走るティラノサウロスの頭の横に掴まったままで…
先頭を走るカソ研のバンは屋台街を抜けてしまうと、もう一度さらに裏路を通って再び屋台街の入り口へと向かう。
周回しながら様子を伺い何らかの対策を立てるために時間を稼ぐ。
そもそもはコミフェス。市の体育館の中はコミケ的というよりは、ゲームショウに近い派手に飾られた各々のブースが並んでいる。
企業がやっているゲームショウとちがうのはなにより手間と暇がたっぷりとかけられ自分の趣味、好きなモノに掛ける愛情に溢れている分一つ一つのブースがなんとも個性的だ。
その象徴ともいえる、一番奥のスペースに悠然と立つ一分の一の人造ティラノサウロス。
作ったのは東京東西工科大学の仮想現実化研究会。名前だけ聞いたらいったいなんの活動をどういうふうにやっているのか皆目見当もつかないようなサークルで、しかも驚くことにその恐竜の足元の回りに立てられている説明ボードによると、これは女子大生二名と男子大学生一名のたった三名による作品だった。
かなり本物に近い動きを再現した究極の一品モノ! とのことだったが、そもそも本物の恐竜の動きってのがわからないし、吠える声も、そのメインの攻撃能力である頭突きの威力も、尻尾のパない力! ってのもちょっと誰にも想像はつかなかった。
その足元で「ひょええぇぇぇぇ」しめじは反っくり返って見上げながら、そんな声を発して笑っていた。
リアルに作られた恐竜のザラっとした肌に触れ、さらにまたなにがおかしいのか「はははは…」と笑っていた。
「オマエハ…誰ダ?」
その時、上から声が聞こえた。
いつの間にか恐竜は起動していた。
「オマエハ…誰ダ?」もう一度、恐竜が聞く。
「私は、しめじ…」しめじはそう答えた。
「ボクは…ダレ?」
「んと…あなたは」しめじは横に掲げられているボードに書かれた恐竜の説明書を読み上げてあげる「ティラノサウロス…で、恐竜、作られた恐竜…」
「キョウリュウ…ソレハ何? …検索」
ティラノサウロスの首の後から下に垂れているコードは、そこからずっと床を這い外の駐車場へ。そこの片隅に停められている仮想現実化研究会のバンへと伸びている。
中に積んでいるメインコンピューターからティラノサウロスが必要な情報をダウンロードするのに掛かった時間は0・0000072秒。
とたんに恐竜の言葉ははっきりと鮮明な声となり、体をくねらせる動きもいきなり極めて滑らかとなった。